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2006年11月17日

「そのうち慣れますよ」とはなんだ!

閑話休題。事実上2晩満足に寝ていなかったので、熟睡して目が覚めた。疲れはほとんど残っていなかった。漫画喫茶の仮眠は、、ぶっ続けの徹夜に比べれば私にとっては無茶の度合いを十分やわらげるものだった。例の虫のことも忘れていた。朝風呂に入り、3日分の汗を流した。ヒゲもそり、爽快になった。にもかかわらず、件(くだん)の虫はあい変らず私にまとわり付いているのである。眼を左右に動かすと、その虫も左右に動く。ゴミが眼に入っているためと思い、洗い流すように大量の目薬を注してもいっこうに消えない。この時点で私は、これはちょっとおかしいと本気で思うようになった。

私は学者でも文筆家でも芸術家でもないが、それでも目は職業柄も大切なものだ。目が悪くなったら困る。これは眼科にみてもらった方がいいと思った。以前モノモライが悪化した時に、かかったことのある立派な病院が近くにあった。眼科医院ではなく、入院施設もある眼科専門の病院だ。机の中を探したら、診察券がまだあった。私は朝食をすませると、すぐにこの病院に向かった。

視力検査をしたり、眼底検査をした結果、担当の女医さんは「たいしたことはないですよ。これはヒブンショウといって、眼球の水の中に水泡ができたために、そうなるんですよ。誰にでも起こる、一種の老化現象ですよ」といった。白内障とか緑内障とかソコヒというのは、聞いたことがある。しかし、ヒブンショウなどという恐ろしい病名を聞いたのは初めてである。これは大変だ、困ったと思った。

「そうですか。でも治せるのでしょう?」と訊ねると、

「そのうちに慣れますよ」とまことに素っ気ない。

でもこんな状態が続いたのでは困る。だいいち煩わしくてしょうがない。ぜひ治してもらいたいと必死に訴えるのであるが、手術とか特効薬という回答はない。そして最終的判定は、

「黒く見えるものはたいしたことはありませんが、血圧がちょっと高いですね。眼底をみたのですが、ちょっと危険な状態ですよ。血圧の方を、専門の先生に診てもらって下さい。いないのであれば、専門の先生を紹介しましょうか」

と私の関心ないことをいう。

「いや、かかりつけの先生がいるので結構です」

といって、きわめて不満であったが退散することにした。普通にいえば二晩も徹夜したのであるから、血圧が少々高くても仕方がない。だいたい血圧なんてものは、高くなったり低くなったりするものだ。上150-下120なんてことはこれまでも結構あった。そんなことはたいしたことではない。問題は目の中のこの虫だ。そのうち慣れますよというのは、ちょっと無責任ではないか。私はかなり強い赤緑色弱であるし、小学生のときから0.7くらいの視力だししかも乱視だ。でも、世の中はよく見えてきた。だが、黒いものがいつも目の中にあるというのは、尋常ではない。近代医学で何とかならないことはない筈だ。それなのに「そのうち慣れますよ」とはちょっと酷いではないかと腹がたった。

入院施設まである眼科専門病院にしては何だという気になったが、それだけに目の方はどこかに行って診てもらう訳にもいかない。セカンドオピニオンというやつだが、きっと無駄だろう。そうすると打つ手がないということだ。たいしたことはないといわれても、本人にとっては一大事であり、深刻この上もない事態だ。どういう状態かというと、自動車のフロントガラスにちょっと埃の混ざった水滴の跡があるようなものである。あれって、結構気になるでしょう。少なくとも私は気にする方で、運転する場合はウィンドーウオッシャーで液を十分出してきれいにして運転する。それでも落ちない場合には、タオルできれいに拭くようにする方だ。

痛くも痒くもないのだが、目の中の黒い斑点はすごく気になる。目を動かすたびに黒い点が左右に動く。煩わしく、うっとおしいことこの上ない。私にしてみれば、深刻な一大事の発生だ。しかし、どうしようもないと宣告された。それは、この状態が一生続くということではないか! 無茶したことを若干反省しつつ、暗澹たる気持ちになった。女医さんにかなり強く言われた血圧の関係を看てもらうなんて気になれなかった。だいいち、その結果は分かっている。どうせ血圧を下げる薬を呑みなさいといわれるだけのことだ。そして、血圧降下剤を呑めば、血圧は確実に下がるのである。女医さんがいうほど、こちらの方は深刻でもないし、一大事でもない。


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